※本稿は手口解説ページの第⑤〜⑥段階と被害事例に基づくものです。 被害額の一例は約480万円(借入により発生)。特定個人の犯罪を認定するものではありません。

前回までの流れ

第1〜2回で勧誘・ドラマ・イベント参加、第3回で偽トレードアプリと孤立化までを追った。 ここまでの設計は「信頼を作り、参加させ、責任を負わせる」ことに集中している。

第4回はその前提となる金の動き—— そもそも被害者はどうやって参加資金を用意させられ、どこに送金させられたのか。 心理操作(小笠原)と技術(笹田)をつなぐ、第三の層だ。

調査ノート⑤ — 借金の指示と源泉徴収票の改ざん

被害者の記録

イベント参加を申し込むと、資金がない場合は消費者金融で借りるよう誘導された。本物の源泉徴収票を提出したあと、「このデータを使ってください」と年収が水増しされた偽の源泉徴収票が返送されてきた。7社から借入ができた。

手順の分解

  1. 「資金集めのサポート」 — 第2回のイベント発表で予告されていた文言。実態は借金指示。
  2. 本物の源泉徴収票の提出 — 担当者が年収などを質問。被害者は正直に答える。
  3. 改ざん書類の返送 — 名前・住所は本物のまま、年収だけ水増し。気づきにくい。
  4. 複数社からの借入 — この事例では7社。審査を通すための組織的な手順。

なぜ源泉徴収票なのか

消費者金融の審査には収入証明が必要だ。 被害者自身の本物の書類をベースに改ざんすることで、 本人名義の借入を成立させる——これが二重の罠になる。

運営側の狙い(手口解説より): 被害者自身が偽造書類で借入した形になるため、「訴えればあなたも罰せられる」とねじ伏せる材料になる。 金銭面でも心理的にも、動きにくくする設計だ。

調査ノート⑥ — 暗号資産への入金

被害者の記録

借り入れた資金を、暗号資産(仮想通貨)経由で指定先に入金させられた。送金先の追跡は困難で、返金はほぼ不可能だった。

なぜ暗号資産か

  • 銀行振込と違い、送金先の追跡が困難 — 警察・金融機関でも対応に時間がかかる。
  • 被害者にとって馴染みのない操作 — 取引所の開設・送金は担当者が「サポート」。疑う余地が減る。
  • 一度流れたら戻らない — 返金・凍結の可能性が銀行振込より大幅に低い。
被害後の現実: 借金の返済義務は被害者本人に残る。詐欺だと気づいた後も、消費者金融への支払いは続く。 この事例では、ご家族に打ち明け7社すべてを完済したが、多くの被害者は一人で抱え込む。

泣き寝入りの罠——金と書類の二重拘束

第⑤⑥段階の恐ろしさは、金を奪うだけではない。 被害者を動けない状態に固定することにある。

借金の残債

借りたのは本人名義。返済義務は詐欺発覚後も消えない。生活が破綻しやすい。

改ざん書類の使用

偽造源泉徴収票で審査を通した事実。正直に申告すれば罪の可能性も示唆される。

暗号資産の不可逆性

送金先の特定・返金が極めて困難。「取り返せる」という希望を断つ。

第3回の「入力ミス」演出と組み合わさると、被害者は 「自分が悪い」「言い出せない」「もう終わり」という状態に追い込まれる。 これが、のちの追加入金要求(第⑨段階)や音信不通につながる。

金銭フロー全体像(第1〜4回の統合)

ここまでの連載を金の流れで並べ替えると、次のようになる。

  1. 入口(第1回)— 副業として参加。まだ金は動かない。
  2. 演出(第2回)— ドラマとイベント。「15万円から」「資金サポートあり」。
  3. 集金(第4回・本回)— 借金+改ざん書類で7社から調達。
  4. 送金(第4回・本回)— 暗号資産で指定先へ。追跡困難。
  5. 演出②(第3回)— 偽アプリで「損失」表示。責任転嫁。
  6. 追い打ち(第⑨段階)— 追加100〜200万円の要求。断れば音信不通。

サクラ(小笠原)、システム(笹田)、 そして金銭フローを指示する上位層—— 第5回では全体を俯瞰する江尻晃(えじりこう)への線を追う。

第4回時点で分かること

  • 金銭フローは設計されている — 借入→暗号資産→偽損失、が一連のテンプレ。
  • 改ざん書類は「封じ込め」に使われる — 被害者の告発を抑止する材料。
  • 組織は3層以上 — 心理(小笠原)・技術(笹田)・統括(江尻)の分担像が情報提供で重なる。
  • 被害は借金として残る — 金額の大小にかかわらず、手口の深刻さは同じ。

被害者に確認したい情報

  • 借入を指示した担当者の名前・連絡手段
  • 返送された源泉徴収票の写し(公開せず手元保管)
  • 暗号資産の取引所名・送金先アドレス・日時
  • 借入した金融会社の社名と金額

次回予告 — 第5回:全体統括と組織の頂点

入口から金の流出まで、各層が役割分担しているように見える。 情報提供者・内部告発の内容では、その頂点に 全体の統括を担っていたと報告されている人物の名前が挙がる—— 江尻晃(えじりこう)

第5回では、勧誘から孤立化・音信不通に至るまでの指揮系統と、 3名の役割分担がどう接続するかを整理する。

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第5回:全体統括と組織の頂点

江尻晃(えじりこう)——情報提供に基づく全体統括の手がかり。

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